ホーム > 投資コラム > 株価評価(10)EV/EBITDA
EBITDAのもう一つの用途としては、
このEV/EBITDAは前々回も申し上げたように、
買収の回収をイメージした指標であると捉えることができ、
実際の企業買収の現場においても、投資採算の一つの基準として、
用いられることの多いものでした。
その場合、買収者にとって、「コントロール出来る」利益概念として、
EBITDAが捉えられている、という側面もあります。
つまり、利払いは、例えば買収者がすべて借金を返してしまう決断をすれば、
その時点で必要なくなるものですし、税金に関しても、買収時の
ストラクチャリング(設計)や満たす条件等によっては、その金額が大きく
変わってくる事があります。
そして、償却に関しては、元々キャッシュの流出を伴わない費用であり、
買収者が、抱える資産の目減り分を新たな資本支出で補おうとしない限り、
そのまま手元に浮いてくる利益、キャッシュであると考えることも可能では
あります。
その様に考えれば、買収コストの回収を考えるにあたっての一つの指標として、
このEBITDAを「買収者がコントロール出来る最大限の利益」的に分母に置いた、
EV/EBITDAがよく用いられる事にも、一定の使い道はあるのかもしれません。
一方で、投資の世界においては、このEBITDAの有用性に関して批判してきた
プレイヤーも少なくはありません。
中でも有名な例は、著名投資家ウォーレン・バフェット氏の、EBITDAにおいて、
減価償却を足し戻す非合理性に対しての批判です。
同氏は、減価償却は、決して意味の無い費用や、利益と考えても問題のない存在
などではなく、その計上の裏には現実に、将来の資本支出、つまりキャッシュを
流出する必要性の生じていることを示す、欠かすことの出来ない費用である、
といった旨の発言をしています。
会計初心者の方向けに再度補足をしておくと、
減価償却とは、たとえば、企業が生産に用いるために購入した機械
(価格を1億円とします)を、それを利用できる期間(例えば、5年間)にわたって、
費用化するというものです。
もう少し分かり易く説明しますと、仮に、今年購入した機械だからといって、
支払った価格1億円をすべて、今年の費用として計算してしまうと、今年の利益が
大きく減ってしまう一方で、来年以降は、実際にはその機械がまだまだ生産に
利用できているにも関わらず、その機械の費用はゼロ(今年既に1億円費用として
しまっているため)、その分利益は大きく増える、ということになってしまいます。
企業の毎年の利益が、そのようなおかしな姿を映してしまうことの無いように、
機械を使える期間にわたって、毎年の費用をきちんと、計上していく(例えば、
毎年2千万円ずつ、等)、というのが、減価償却の意味です。
そして、そうである場合、減価償却というものは、既に1年目にキャッシュの流出
(上の例では1億円)が済んでいるので、確かにその後の期においては、
キャッシュの流出を伴わない費用であり(上の例では、5年間、2千万円ずつ費用は
記録するものの、それはあくまで毎年の業績の把握のためであって、
キャッシュ自体は1年目に全て支払っている)、
それを買収の「回収」に用いることが出来ると考える論理構成は、
一見、正しいようにも見えるかもしれません。
しかし、原点に立ち戻って考えれば、そもそも減価償却という仕組みが
生まれたのは、企業が抱える機械などの資産の、それぞれの期の価値の減少分を、
きちんと把握しよう、という考えからであり、
その減少分は、実際の機械などの磨耗分からは一定の範囲でズレが生じてくるのは
当然ですが、それでも企業の運営を維持していくためには、そのようなコストが
発生しているという事実自体を否定するものではありません。
その意味において、この点に関するバフェット氏の指摘は、全く妥当であると
当社でも考えており、またそれ以外のEBITDAの持つ限界も踏まえた結果、
実際に日々の投資検討にあたって当社でこの「EV/EBITDA」を重く用いるケースは
皆無であるという現状になっています。
それでも、これまで何度か述べてきたように、殆どの株価指標や投資分析の
ツールには、それぞれの利点と限界が同居するのが現実であり、また、この
「EV/EBITDA」に関しては、一般的な金融記事などでも目にすることの多い用語
という事情もありますので、
それら記事の一層の理解に役立てる上でも、上記の内容程度までは、
押さえておいて損となることは少ないのではないかと考え、
ご説明を目指した次第です。
若干、込み入った箇所もあったかもしれませんが、
少しでも読者の方々にとって有益な内容となれば幸いです。
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