当コラムにてこれまで述べてきたように、株式・債券(社債)投資にあたって求められる分析は、財務諸表から得られる定量的なデータだけでなく、企業訪問、工場・店舗見学、競合・顧客分析など、幅広い範囲にわたることとなりますが、それでも多くの、特に時間その他の制約条件の大きい個人の、投資家にとっては、手軽に場所と時間を選ばずに行うことの出来る財務諸表分析から、重要な最低限の情報を得ることが可能です。
また、自身が個別銘柄の選別を行わない場合でも、保有する投資信託の組み入れ銘柄などの概観を把握するためにも、このような分析方法について押さえておくことは意味があるのではないかと考えます。
そのため今回から、財務分析の経験を持たない初心者の投資家の方向けに、幾つかの基本的かつ古典的な財務諸表分析の項目について、簡潔な説明を行っていきたいと思います。
まずは企業の「安全性」を見るための「流動比率」について。
企業の「安全性」とは、企業の財務の姿や資金繰りが健全であり、外部への支払いが不可能になることなどによって、会社経営が存続不可能におちいる危険がないことを指します。
俗に「黒字倒産」などという言葉も用いられますが、企業の収益性が高く、儲かっていると思われている場合においても、企業の血液である資金の循環が滞ってしまえば、経営をそれ以上続けるのは困難となります。
「流動比率」は、企業の短期的な債務返済能力を見るためのものであり、「流動資産÷流動負債」によって計算されます。
”企業の短期的な債務返済能力を見るためのもの”ということは、逆に言えば、長期的な債務返済能力を見てはいない、ということになりますが、当然のことながら、短期は長期よりも先の問題として訪れるものであるため、まずは目先の状況を見るべき、ということで非常に重要視される安全性の指標です。
ここで、短期的、あるいは流動、という言葉の指すところは、通常の営業活動の中でのお金の動き、あるいは1年以内のお金の動き、を意味しており、逆に、1年を超える通常の営業活動から外れる資産や負債は、検討から外れることになります。(たとえば、5年後におりる多額の保険金は、ここでいう短期の債務返済に使えるとは想定しない)
参考までに、流動資産には、現金及び預金、受取手形及び売掛金、有価証券、棚卸資産(いわゆる、”在庫”です)などが、流動負債には、支払手形及び買掛金、短期借入金、などがあります。
計算方法はとてもシンプルで、企業の貸借対照表(バランス・シート、B/Sとも言います)の中の、「流動資産」の合計額を、「流動負債」の合計額で割ってやる、だけとなります。
得られる数値(%)は、多くの一般的な企業であれば、100%を少し下回る水準から、数百%程度の範囲にあることが多いものです。
意味としては、この数値が高ければ高いほど、短期の支払い義務を、短期の資産(つまり、すぐに現金化できると考えられる資産)で十分にカバーできている、ということになり、100%を超えていれば、短期の支払い義務の全額を、短期の資産でカバー、200%であれば、支払い義務の2倍にあたる短期の資産が存在する、ということを意味します。
財務分析の教科書的には、最低でもこの数値が100%、出来れば200%を維持しているのが望ましいとされ、100%を切っていれば、それは近い時期に支払いが発生する負債をまかなうための、すぐに現金化が可能な資産が手元に十分に用意されてないことを示唆するため、経営の健全性が低い、とみなされることになります。
そしてその様な理由付けがあるため、上記のように、一般的には(特に上場企業では)、100%を少し切る程度から、十分に余裕があると考えられる水準、数百%のところに、経営陣が維持していることが多くなっているのです。(もちろん、100%を切っているような場合は、経営陣は、これをもっと高めたいと考えているはずです)
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