今回は、株式投資にあたって重要視されることの多い指標でありながらも、
その指標と投資における有用性の関係などが、必ずしも十分に整理・説明が
されていないことも多いと弊社が考える、ROE(自己資本利益率)を
題材として取り上げたいと思います。
まず、この指標を式として見れば、
当期純利益 ÷ 自己資本
とされることが一般的です。
また、ここで分子・分母の部分に実際に何を入れて計算を行うのかに関しては、
技術的には幾つかのオプションがあります。
ただしここでの目的は、ROEという指標のイメージを掴んでいただくことと、
その株式投資における使い方・限界を整理してお伝えすることですので、
上のような技術的な話には深く立ち入らず、それぞれ幅をもった、
「利益」を「自己資本」で割ったもの、
と捉えていただければ、ここでの説明上は問題ありません。
さて、ここでもう一度、このROEとは何なのか?をより平易にイメージ
するため、出来るだけ会計的な概念から離れた言葉でこれを捉えなおすべく、
具体的な例を用いたいと思います。
(例)
投資家であるX氏は、自己の資本である300万円を持っており、
これを出来るだけ有効に活用したいと考えていますが、
本人として自ら事業を手掛けたいといった希望は持っていません。
そこで、誰か他の人に、自分の資本を使って事業を行ってもらい、
そこから上がった利益を得る形で資本を有効活用できればと考えます。
ここで、知人からの紹介で、事業家(経営者)のA氏、B氏、C氏がそれぞれ、
新たに始める事業や、これから買い取ろうとしている事業で、お金(資本)を
必要としており、それぞれが人物的には信頼にも値する、しっかりとした人々
であることも分かりました。
X氏は、彼らが行う事業の内容や将来性などについてはあまり詳しくはない
ものの、今回の300万円については、使い道が決まっているわけでもなく、
また、完全にリスクを取っても構わないと考えている資金であるため、
それぞれに100万円ずつ投資し、利益が出た場合にはそれを元本とあわせ、
将来のいずれかのタイミングで受け取るという話を付けました。
また、X氏は、各氏が信頼できる人々であることも確認でき、投資資金が
何年後かに必要になるものでもないため、各氏の判断でその資金がさらに
将来の利益を生むと考えられる時には、ある年に発生した利益はX氏に
配当することなく、そのまま次の年以降の事業に振り向けてかまわない、
と伝えています。
このような話を受けて、
・A氏はX氏の100万円を元手に、そのような比較的少額な資本でも可能な、
小さな広告代理店のビジネスを始め、
・B氏はX氏の100万円に、銀行とも話を付け900万円の借り入れを受け、
あわせて1,000万円を使って個性的な飲食店を立ち上げ、
・C氏はX氏の100万円で、知人が手放すことを考えていた歴史のある、
しかし経済的には苦境にある、ガラス細工の小さな工房を買い取り、
建て直しを図る、
ことにそれぞれ決めました。
その後、各氏の献身的な働きや市場環境の好転などもあって、彼らの事業は
それぞれ初年度黒字化を実現することができ、それぞれ、
・A氏の広告代理店:20万円
・B氏の飲食店:35万円
・C氏のガラス細工工房:25万円
の利益を上げることができました。もちろん、この利益が出てくる背景には、
それぞれの事業の売上と、事業を行うに必要であった費用
(A−C氏の報酬を含む)が各々掛かっており、それらの差し引きが上の利益と
なっているわけですが、出てくる数字が増えるのを避けるため、ここでは
最終結果のみの利益を示すこととしています。
そして、この時のそれぞれの事業のROEは、自己資本はどれもX氏が拠出した
100万円で、利益額のみがそれぞれ異なるので、
・A氏の広告代理店:20万円 ÷ 100万円 = 20%
・B氏の飲食店:35万円 ÷ 100万円 = 35%
・C氏のガラス細工工房:25万円 ÷ 100万円 = 25%
となります。
ちなみに、B氏はX氏の100万円に加えて、銀行から900万円を借りて
そのお金も事業に回していますが、銀行からの借り入れは
「自己資本」ではなく「他人資本」と考えられる(返済の義務がある)ため、
ROEの計算にはその900万円は直接は含まれていません。
ただし、B氏の飲食店の利益35万円が残るまでには、費用の一部として既に、
銀行への支払利息が差し引かれているということだけご確認ください。
つまり、銀行に利息(たとえば税引後で30万円)を支払う必要がなければ、
飲食店の利益はその分だけさらに多かった(35万円+30万円=65万円)
はずですので、他人の資本を使って事業を行っている分、
大きな規模の事業展開はしやすいものの、その分はしっかり費用(支払利息)
として利益を減らしており、そのため間接的にROEを下げる要素は
含まれている、ということになります。
さて、この数字を見ると、
ROEという指標は何を示していると言えるでしょうか?
ここから少なくとも確実に言えることは、B氏、C氏、A氏はそれぞれ、
X氏の資本100万円を使って、それぞれこの1年間で、35万円、25万円、
20万円の資本を新たに生み出した、ということです。
そしてこの事実を、あくまで結果論として、且つ、この1年だけの話として
見れば、同じ金額の元手(100万円)を使って、それぞれ自由に経営をした
結果が上記の差となって表れているわけですから、X氏にとって今年もっとも
自分の元手を効率的に活用してくれた経営者は、元手を35%も増やしたB氏
であるということも言うことができそうです。
ここで、「たしかにB氏は35%も資本を増やしたけれども、
B氏は他人の資本を900万円も使って事業を行ったのだから、
それをしていない他の二人と比較するのは不公平だ」とお感じになられる方も
いるかもしれません。
しかし、A氏もC氏も、B氏と同じように借入を使う自由はあったはずで、
彼らはそれをせず、そして前述のとおり、B氏は他人の資本を使っても
その対価もきちんと払った上で上記の成績を残しているわけですから、
やはりX氏の資本をもっとも効率的に、おそらくは創意工夫をして、
活用してくれたのはB氏であるとの評価が間違っているとは
主張し難いものと思われます。
さて、ここでのX氏のように、”誰が、何を(事業として)やるところに”
資本を預けるか、によってその資本がどれだけ効率的に活用されるかは
異なってくるわけですが、上記のような5%から15%といった効率性の差は、
1年間では最大15万円の違いに過ぎませんが、その期間が長くなればなるほど、
大きな差をもたらしていくことになります。
つまり、もし上記のA−C氏のROEが、今後15年間変わらなかったとすると、
X氏の投じた元手の100万円は15年後に、
A氏によっては、1,541万円
C氏によっては、2,842万円
B氏によっては、9,016万円
にそれぞれ、増やされることになります。
どれも増加額としては素晴らしいものですが(基本的に、ROEが
長期に亘り20%を超えるということはかなり優秀な事例であるため、
ここでの増加額も優れた数字になっている)、同時に、同じ100万円の元手が
A氏に預けるかB氏に預けるかによって、15年後には7,500万円弱
もの差を生み出してしまうのであれば、X氏にとっては、
最初の時点で誰に100万円を預けるのかという問題は、
とても重要な決断となることがお分かり頂けると思います。
つまり、ここまでを整理すると、ROEそれ自体が示すものは、
単純に投資家の資本を1年間でどれだけ経営者が増やしてくれたか、
というパーセンテージであり、
これが高いということは、その1年間に経営者が皆様のような投資家にとって
良い仕事をしてくれたという証左である可能性が高く、
1年程度の期間であればその差はそれほど大きくなくとも、
期間が長くなればなるほど、このROEの違いが、投資家の実入りに
段々に大きな差をもたらすことになる、ということが言えます。
(次回に続きます)
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